という歴史をたどっている。現在は、旭化成工業、電気化学工業、日本エラストマー、日本ブチル、日本合成ゴム、三菱化成、クラレ、三井石油化学工業、日本ゼオン、昭和電工・デュポン、住友化学工業、東ソー、宇部興産などが、各種ゴムを製造している。
引張り強度、伸び、硬さ、磨耗、屈曲、耐熱、耐油、導電、気体透過など、ゴムの特性は多岐に渡っており、一見複雑に見える。しかし全てのゴムは第1回、第2回で述べた分子構造に由来する、『4つの基本因子』によって支配されている。
(1)結晶性
水を冷却していくと、0℃で凍って固い氷になる。氷は温度の低下によって、水の分子の運動が困難になり、一定の形に分子が配列して出来る。液体の水と個体の氷では同じH2Oでもその性状が異なるが、その差は分子の結晶の有無によっているのであるから、分子の規則正しい配列(結晶)が、いかに物質の性質に影響するのかが分かる。
ゴムの中に結晶ができると、その部分の分子は規則正しく配列し、ゴム同士が互いに接近して強固なブロックを形成する。従って、ゴム分子が分子運動する余裕も少なくなっており、非結晶部分より密度も高く、非常に固い部分を形成している。この為、ゴム中に結晶ができると硬さが上昇し、引張り強さが大きくなり、伸びと弾性が低下する。また、耐油性は向上するが、耐寒性は低下する。
ただ留意すべき事は、結晶性のゴムといっても、ゴムは水などから見れば巨大な高分子なので、たとえ結晶温度まで冷却しても、水のようには簡単には結晶しない。ゴムが結晶するには、ゴムの分子が移動して規則正しい配列をする必要があり、ゴム分子は巨大なため移動に時間がかかり、水のように0℃ですぐ結晶する場合と大きく異なる。
また、結晶性のゴムは伸張を受けると室温でも結晶する。これは、伸張を受けると、ゴム分子同士が接近し、一定方向に配列するため瞬間的に結晶する。伸張をゆるめれば、すぐに結晶が融けて元に戻る。結晶性のある天然ゴムやクロロプレンゴムが純ゴム配合(カーボンなどの補強剤無添加)でも強度が大きいのはこの為である。
結晶性ゴムの一般的性状
- 未加硫生地の強度が大きく、押し出し機への食い込みがよい。未加硫生地の成形性がよい。
- 純ゴム配合でも高度の物性が得られる。低硬度で高強度を要求される用途に適す。
- 低温時の硬さ変化や圧縮永久歪みが大きくなる。(温度依存性が大)
- 原料ゴム、未加硫ゴムが保管中固くなり、溶剤に溶けにくくなる。
- 補強剤は伸張時の結晶性を阻害するので、効果が少ない。
- 耐寒性にはマイナスであるが、結晶化だけの影響で脆化する事はない。
- 結晶化は老化ではなく、加温により結晶を溶かしてやれば完全に元に戻る。
(2)極 性
原子は、電気的に見るとプラスの電気を持っている陽子とマイナスの電気を持っている電子から成っている。このプラス、マイナスの電気量が同じであるので、電気的には中和されている。(中性、ゼロ)
しかし、電気的には中性でも2つの場合が考えられる。1つは、プラスの電気の重心と、マイナスの電気の重心が完全に一致している場合、今1つは、重心位置が一致していない場合である。後者の場合電気的にはプラス・マイナス ゼロであってもプラスの電気の多いところと、マイナスの電気の多いところが分離しており、ちょうど磁石のような性質を帯びる。分子の中に陽極と陰極が出来ていることになり、このような状態を極性という。そして強制を持っている分子を極性分子、そうでない物を非極性分子という。
それではどのようなゴム分子が極性を持っているのか。一般に炭素(C)と水素(H)の原子だけから出来ているゴムの分子は極性がないか、あっても非常に小さいと考えて良い。ゴム分子の中に窒素(N)、酸素(O)、塩素(Cl)、硫黄(S)などが結合している場合は、シリコンゴムを例外として、極性を持ったゴムと考えて良い。(加硫剤としての硫黄は、極性には影響が少ない。)
極性ゴムの一般的性状
- 耐油性が大きくなる。油にも溶剤にも極性、秘曲性があるがここでは非極性油(ガソリン、灯油、潤滑油などの鉱物油)を云う。ゴム分子が電気的に磁石のように強固に結合しているので、極性(磁石)に引きつけられない異物はゴムの中に入り込めない。
- 極性ゴム同士、極性を持ったプラスチック、配合剤とのブレンドが良くなる。
- 接着性が向上する。理論的なことは説明しにくいが、磁石が磁石に感応(分極)しやすい鉄を引きつけることで、理解できる。
- 加硫が早くなる。極性ゴムは電気が部分的に偏っているので、化学反応(加硫反応)を起こしやすい。
- 耐熱性が向上する。ゴムを加熱すると空気中の酸素によって酸化老化するが、極性が強いと酸素がゴム分子の表面から浸透しにくくなり、結果として耐熱性が向上する。
- 原料ゴムの硬度が高くなる。
- 電気伝導性が良くなる。陽極と陰極があることから理解できる。
- 耐寒性が低下する。電気的な結合が強く、分子の自由な運動が阻害されるためである。同様の理由でゴム弾性が低下する。
- 極性溶剤に溶ける。
極性溶剤 | ・・・ | アルコール、アセトン、水 |
非極性溶剤 | ・・・ | ヘキサン、四塩化炭素、ベンゼン、シクロヘキサン、トルエン |
- 耐水性が低下する。水は代表的な極性分子であり、一種の極性溶剤と考えられるのでAの理由から親和性がよい。従って水を吸収して膨潤する傾向にある。
(3)安定性(耐老化性)
ゴム製品を屋外で使用すると、表面が固くなりクラックが入ることを私たちは経験的に知っている。これをオゾンクラックと言うが、ゴムと老化は断ちがたい関係にある。ではゴムの耐老化性(安定性)は何によって定まるのかというと、分子の二重結合の有無によって決まる。
二重(不飽和)結合が存在すると、反応性が大きく不安定な化合物になる。また、二重結合のところで酸素の攻撃を受けやすくなり、老化を起こすので二重結合のないゴム分子が望ましいが、二重結合がないと硫黄による加硫(橋掛け)が出来なくなる。本質的には二重結合のないブチルゴム、EPTゴムなども硫黄による加硫を行うなめ、わずかながら二重結合を分子の中に入れている。安定性(耐熱老化性、耐オゾン性、耐候性)を左右する要因は次のようになる。
- ゴム分子の主鎖(連続している炭素結合)における二重結合の有無とその量
- ゴム分子の側鎖(枝)における二重結合の有無とその量。(但し、側鎖の中の二重結合は主鎖の場合ほど影響しない)
- 二重結合の反応性に影響を与える原子や基の存在。(二重結合のそばのメチル基(CH3−)は反応を促進し、塩素原子(Cl)は反応を抑制する。
- 分子を構成する原子の種類。
珪素原子(Si)と酸素原子(O)の結合は熱安定性が優れている。

一般的にゴムの安定性が向上すると
- 耐老化性(耐熱、耐オゾン、耐候性)が向上。
- 耐薬品性が向上。
- 加硫が遅れる。
- 接着性が低下。
- ゴム弾性が低下。
- 補強配合剤の効果が低下。
(4)柔軟性
ゴム弾性が大きかったり、小さかったり、これはゴム分子の自由運動性、屈曲性(柔軟性)による。
柔軟性を向上するには、
- ゴム分子に側鎖(枝)がないこと。大きな側鎖や多数の側鎖は分子運動に対して立体障害となる。
- 極性が少ないこと。
- 使用温度で結晶性がないこと。
- 主鎖に酸素 ─O─ 結合がある。
ゴムの柔軟性が大きくなると
- ゴム弾性が向上。
- 耐寒性が向上。
- 気体透過性が大きくなる。
(ブチルゴムはこの理由により、気体透過性が小さい。)